音楽やってきて良かったと思えた日

2016年2月23日:Zepp Tokyo

この日、とあるバンドのラストライブが行われました。19年間、活動してきたそのバンドは、何千人ものファンの大歓声に見送られながら、この日をもって解散しました。

DuelJewel

Vo,Gt,Gt,Ba,Drの5人組。いわゆるヴィジュアル系に属する彼らのサウンドは骨太のハードロックが多く、それに加えてさやわかなポップや柔らかなバラードなど幅広い。日本のヴィジュアル系として初めて海外でライブを行ったバンドとしても有名で、YouTubeなどで彼らのMVを見ると外国語の書き込みがとても多い。

2016年2月某日。日頃からお世話になっているエンジニアのKさんから「むかしから可愛がってるヴィジュアル系バンドのライブで使われる楽曲のアレンジをお願い」との依頼を頂いた私は、それまでヴィジュアル系の音楽やバンドさんと接点を持ったことが全くなく、「ほぅ。。」と言ったまま楽曲についてなんのイメージも湧かず、ただ、Kさんからの依頼であれば絶対に頑張ろう、という気持ちだけがあった。そこで、もう少し詳細を聞いてみようといくつか質問をすると衝撃の事実が。そのバンドはなんと19年間も同じメンバーでやってきたこと。ボーカルの方が喉の病気になってしまい治療に時間がかかること。19年間苦楽を共にしてきたメンバーは彼のボーカルじゃないとバンドは成立しないと考え「解散」の道を選んだこと。そしてなんと私がアレンジした曲が流されるのは、その解散ライブの場であること。そこまでお聞きして、私には絶対に頑張ろうと思える理由がもうひとつ増えました。私よりずっと長く音楽業界で頑張ってこられた先輩たちに敬意を込めて、絶対に頑張ろう。

アレンジといってもいろいろで、今回私がさせて頂いたことはオーケストレーションというもの。これはいわゆる「オーケストラ編成」にアレンジすることを言います。全部で3曲担当したのですが、そのうちの1曲はライブの最後。本当に最後の最後。バンドメンバーがステージから去っていくシーンで流されました。魂のこもった5時間にも及ぶ圧巻のステージの後に訪れた「そのとき」。19年間みんなから愛されてきたバンドが悔いなく自ら幕を降ろす瞬間は切なくも美しく、そこには本物の感動がありました。メンバー、泣いてました。ファンの皆さんも号泣してました。でも、温かかった。「お疲れさま」「ありがとう」「元気でね」「みんなもね」そんな会話がテレパシーでビュンビュン飛んでました。その感動のなかに自分の作った音が流れている。いや、私はアレンジしたに過ぎませんが、さっきまで自分の手元にあった音が、Zepp Tokyoの、こんな感動的なシーンで流れているということの不思議に実感を持つまでには、それなりの時間がかかりました。そして、私が得た実感を言葉に置き換えるなら、間違いなくこれです。

「音楽やってきてよかった」

はじめて、自分の音楽がひとのためになれたような気がした、、ように思えた。私が音楽に込めたものがちゃんと会場に充満している気がした。あの感動はDuelJewelとファンの皆さんが作り上げたものであり、流れていたのは私の曲ではなくDuelJewelの曲だ。でも、ほんのささやかでも、黒子として私が機能したのであれば、こんなに嬉しいことはない。この日のために、いままでの学びがあったのだとしたら、そのすべてに改めて感謝したい。そんな気持ちになれたこのライブを、私はずっと、忘れないだろう。

Karin